研究紹介

Research

本研究室では,粒界・界面の物理的特性に関する研究,多結晶材料の機能・性能に及ぼす粒界微細組織の影響に関する研究,粒界微細組織制御のための材料プロセスの研究を行っています. 以下に,現在展開している研究の中から,代表的なものについて紹介いたします.

材料科学的アプローチによる多結晶太陽電池の効率向上に関する研究

ケルビンプローブ力顕微鏡(KFM)を用いたシリコン粒界のポテンシャル障壁の測定:(左)Σ9粒界, (右)ランダム粒界 (S. Tsurekawa et al., Phil. Mag. Lett. 85 (2005) pp.41-49.)
ケルビンプローブ力顕微鏡(KFM)を用いたシリコン粒界のポテンシャル障壁の測定:(左)Σ9粒界, (右)ランダム粒界 (S. Tsurekawa et al., Phil. Mag. Lett. 85 (2005) pp.41-49.)

 太陽電池のエネルギー変換過程においてはいくつかのエネルギー損失要因があり,材料に起因する要因として,「バルク再結合損失」と「直列抵抗損失」とよばれる現象がある.多結晶系太陽電池においては,多結晶中に必然的に含まれる多数の結晶粒界が,電子と正孔が再び結合してキャリアが失われる「バルク再結合損失」の優先的な場所として作用することが知られており,さらに結晶粒界は,ポテンシャル障壁を形成しキャリアが流れる際の抵抗となる結果,電気エネルギーがジュール熱として失われてしまうという問題も生じる(直列抵抗損失).

 しかしながら,多結晶中に存在する全ての結晶粒界が等しく上述したような変換効率低下の原因になるとは限らない.多結晶系太陽電池の変換効率の向上のためには,粒界性格・構造と粒界の電気的特性との関連を調べ,粒界における再結合損失および直列抵抗損失の原因を物理的観点から明らかにすることが重要である.

 本研究室では,多結晶系太陽電池の変換効率向上のための微細組織設計・制御の指針を示すことを目的として,多結晶シリコンおよびII-VI化合物 CdTeの粒界電気特性に関する研究を行っている.

材料微細組織制御に係わる金属学的現象に対する磁場効果

Fe-Si-Bアモルファス合金の磁場中結晶化による微細結晶粒方位制御:(a)無磁場, (b)磁場中(H=6T) (H. Fujii et al., Phil. Mag. Lett. 86 (2006) pp.113-122.)
Fe-Si-Bアモルファス合金の磁場中結晶化による微細結晶粒方位制御:(a)無磁場, (b)磁場中(H=6T) (H. Fujii et al., Phil. Mag. Lett. 86 (2006) pp.113-122.)

 近年,さまざまな金属学的現象に対する“磁場効果”が見出されてきており,材料電磁プロセッシング(Electromagnetic Processing of Materials, EPM)に関する研究が国内外で精力的に行われている.

 本研究室では,磁場効果を利用した粒界微細組織制御に関する研究を行うとともに, “磁場効果”の起源について明らかにするために,固体内の拡散,粒界偏析,粒界エネルギー,粒界磁気モーメント,相安定性などの基礎的物理現象に対する磁場の影響について研究を進めている.

In-situ SEM/EBSD法を用いた材料微細組織のダイナミックスに関する研究

ニッケルナノ結晶の後期異常粒成長のSEM-EBSDその場観察
ニッケルナノ結晶の後期異常粒成長のSEM-EBSDその場観察

 1994年に商業販売されて以来,Automated SEM-EBSD(Scanning Electron Microscope - Electron Backscatter Diffraction)法は今日までに世界中の大学,研究機関,企業に爆発的に広まり,現在では微細組織解析において確たる地位を築いている. その間,画像処理速度の著しい高速化とCCDカメラの高感度化により,解析時間が初期型のOIMに比べ現在では約100~300倍も速くなっている.

 現在の1パターンあたりの解析時間は0.01秒程度であり,例えば,1万点の解析を行うのに以前では8時間以上の時間を要していたものが,現在では3分以下で解析可能である. それにともない,SEM-EBSD法によるその場観察が可能となってきた.本研究では,自作したEBSD用加熱ステージ(最高温度1000K) を用いて,相変態や粒成長のような微細組織組織変化をダイナミックに観察し,これまで組織学上において未解決となっている問題を明らかにすることを目標に研究を行っている.

粒界工学によるフェライト系耐熱鋼のクリープ破壊制御

9-12%Crフェライト系耐熱鋼の旧オーステナイト粒界に沿ったクリープ割れ
9-12%Crフェライト系耐熱鋼の旧オーステナイト粒界に沿ったクリープ割れ

 9-12%Crフェライト系耐熱鋼は次世代の火力発電用材料として期待されている.火力発電プラントのような高温・応力環境下では,クリープ破壊が問題となるが,9-12%Crフェライト鋼の破壊は主に旧オーステナイト粒界(PAGB)に沿って起こることが明らかにされている. また,粒界破壊のような界面劣化現象はパーコレーション現象であり,界面劣化の伝播は粒界性格分布や粒界連結性に影響される. 本研究は,粒界工学手法によりPAGBの粒界性格分布とランダム粒界の連結性の制御を行い,フェライト系耐熱鋼の耐クリープ破壊特性の向上を目的としている.

接合界面現象の探索と応用

Cuと酸化物粒子分散強化銀の爆着界面
Cuと酸化物粒子分散強化銀の爆着界面
分離現象を発現した後に見られる微細TiC集合体
分離現象を発現した後に見られる微細TiC集合体
分離現象を発現した後の鋼表面(粒界やパーライト組織が判別できます)
分離現象を発現した後の鋼表面(粒界やパーライト組織が判別できます)

 身近にある工業製品や構造物のほとんどは,同種または異種材料の組合せで成り立っています.その接合手法はリベットやボルトを用いて機械的に締結されたものもあれば,接着剤によるもの,溶接,はんだ付けなど様々であり,このことが溶接・接合技術が主要な加工技術に位置づけられる所以です.良好な接合体(継手,拡散対)を得るには素材の性質など多方面の情報や知識を総合的に使いこなす必要があり,さらに近年の新素材開発や生産加工技術の高度化に伴って,その高性能化・高信頼性化が要求されています. そこで本研究室では,化学的または物理的に接合した金属/金属または金属/セラミックス接合体を使って,界面部の組織制御に不可欠な試料調整法や観察・評価法の確立,さらには界面反応をはじめとする各種情報の蓄積に努めています.

(1)爆発エネルギーを利用した複合材料の製造と特性評価

 全国の国立大学法人では唯一の爆薬を使った衝撃実験が行える「衝撃・極限環境研究センター」を利用して,各種爆着クラッド材の作製と評価を実施しています.本接合プロセスは,爆薬の爆轟により生じた衝撃波を使って素材同士を高速衝突させて瞬時に複合化するもので,界面部に非平衡相が容易に合成できるといったメリットからも注目されています.現在では,金属箔の転写型コーティング技術を確立し,0.05mm厚さの箔材の接合(コーティング)にも成功しています.

(2)接合・分離可能な新規複合材料の開発

 一般的な接合プロセスは高温下における素材間の物質移動によって達成されますが,特定の条件下ではこれに加えて“分離”という,接合とは全く逆の現象も生じる異材継手を見出しています.これを利用することで,機械的締結や接着剤の場合と同様に「着脱可能な複合材料」が実現でき,資源リサイクル,さらには表面改質技術として役立てることを検討しています.

 これら以外にも,「高融点はんだ」や「Snウィスカー」などの電子機器における拡散現象についても研究を続けています.