積層造形により造られたTi-6Al-4V合金の形状と材質パラメータが同時に制御できれば,航空宇宙ならびに医療機器産業における多様なニーズに対応でき,持続可能な社会の実現に大きく貢献できる.Ti-6Al-4V積層造形材では,HCP構造が持つ異方的性質に加え,造形中に発達する階層的な微視組織形態が重畳して現れることが変形機構の理解を妨げてきた.本研究では,マイクロ引張試験と結晶塑性有限要素解析の融合研究により,Ti-6Al-4V積層造形材の力学特性と変形機構についてトランススケール的に解明を行うとともに,その結果に基づいて,高強度合金設計の指導原理を検討する.
複雑で階層的な微視的組織構造を有する鋼マルテンサイト組織の疲労き裂機構を解明し、疲労き裂抵抗に優れる鉄鋼材料設計の指導原理を提案する。マルテンサイト組織鋼の単一ブロック内におけるき裂の伝搬を直接観察する。また、き裂先端における変形挙動及びすべり系を数値解析し、実験結果との比較により疲労き裂機構を明らかにする。ミクロンサイズ超微小試験片に対して、引張、圧縮、曲げ試験が行える材料試験機を独自に開発し、マルテンサイト組織鋼の単一ブロック内におけるき裂伝搬を直接観察し、疲労き裂機構を定量的に明らかにすることは学術的価値が高い。疲労き裂伝搬抵抗に優れる鉄鋼材料創製への寄与が期待できる。
準安定オーステナイト系ステンレス鋼の水素脆化を克服できれば、水素システム構造部材の軽量化・レアメタルの省資源化を達成でき、持続可能な社会の実現に大きく貢献できる。この種のステンレス鋼では、変形中に動的に起こる相変態が水素脆化機構の理解を妨げてきた。本研究では、マイクロ力学試験技術を利用して、変形過程における微視組織変化が問題となるオーステナイト鋼の水素脆化機構の解明を行う。特に、水素助長疲労き裂進展を支配する双晶境界の役割と成分偏析による縞状組織の影響に注目する。また、結晶塑性解析と連携させることで、マルチスケールモデリングに基づく材料の耐水素強靭化設計の指導原理の提案を目指す。
従来の材料試験法では困難であった、微細で複雑な階層組織を有する合金のき裂進展挙動を解析するため、標準的な試験片の50分の1まで縮小した超小型試験片を用いたき裂進展試験技術を開発した。この手法を用いて、先端高強度鋼の重要組織であるマルテンサイトにおける疲労き裂進展の素過程を調査した。また、水素脆化が問題となる準安定オーステナイト鋼について発達するマルテンサイトとき裂進展の関係性を明らかにした。